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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)2387号 判決 1974年6月07日

原告

富士通商株式会社

右代表者

池田寛

右訴訟代理人弁護士

柳原武男

右輔佐人弁理士

斎藤侑

被告

株式会社秀工舎

右代表者

竹内誠

右訴訟代理人弁護士

網野久治

右輔佐人弁理士

渡辺勤

主文

1  被告は、業として、別紙第一、第二名目録記載のパチンコ球用計数器をを製造し、販売してはならない。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一  原告

主文と同旨の判決を求める。

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。

第二  原告の請求の原因

一  原告の権利

原告は、次の特許権と登録実用新案権の特許権者であり、実用新案権者である訴外から昭和四六年九月一六日にそれぞれ専用実施権の設定を受け、本件特許権につき同年一一月一二日、本件実用新案権につき同年一一月一七日それぞれその旨の登録を経た。

(一)  特許権

発明の名称 パチンコ球計数器

出願 昭和四一年一月一〇日(特願昭四一―九三六号)

公告 昭和四六年一月一六日(特許出願公告昭四六―一七二九号)

登録 昭和四六年八月二八日、第六一六七七三号

(二)  実用新案権

考案の名称 パチンコ球用計数器

出願 昭和三八年二月二〇日(実願昭三八―一〇七一一号)

公告 昭和三九年一〇月二二日(実用新案出願公告昭三九―三一二〇六号)

登録 昭和四〇年五月二二日、第七六九二〇一号

<以下略>

理由

一請求原因一の項と二の項の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、先ず、被告製品甲が、本件特許発明の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。

前記当事者間に争いのない本件特許発明の特許請求の範囲の記載と本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件特許発明は、次の構成要件から成るパチンコ球計数器であることが明らかである。

A  枠体に取り付けられた高速軸3と低速軸4を変速歯車5、6で結合したこと

B  右高速軸に、掛止め突起9を形成した高速円盤7を、低速軸に、凹み部10を形成した低速円盤8をそれぞれ固着したこと

C  右両円盤に常時引きつけられている、高速円盤用爪13及び低速円爪14を形成した磁性回動片15を枠体に軸着したこと

D  右回動片15の磁性回動範囲内に電磁石16を設けること

E  前記高速円盤7の突起9と低速円盤8の凹み部10との関係位置を低速円盤用爪14が低速円盤8の凹み部10に係合したとき高速円盤用爪13を停止突起9の回動軌跡の手前に位置させたこと

他方、被告製品甲であることについて争いのない別紙第一目録記載の説明書と図面によれば、被告製品甲の構造は、次のとおり分説することができる。

A' 四角形の筐体の側壁1に回転軸3を軸着し、底壁2に軸4を固定し、右回転軸3にウォーム5を形成するとともに前記軸4に中空軸4aを回転自在に嵌合し、中空軸4aに円盤状ウォーーム歯車6を固着し、ウォーム5と円盤状ウォーム歯車6を噛み合わせたこと

B' 前記回転軸3に、窪み8を形成した輪体7をクロスピン7a、止めビス7bで固着し、前記円盤状ウォーム歯車6の円盤部に後記爪15より大きい孔10を形成したこと、なお、前記輪体7の窪みの長さは爪14の幅より大きく形成され、窪み8の後端面9は輪体7の半径方向に対して図示のように斜傾(α)し、その前端面も図示のように傾斜(β)している

C' スプリング11により前記ウォーム歯車6及び輪体7に常時引きつけられている、爪15及び爪14を形成したU字形の回動枠12を軸13で側壁1に軸着してあること、なお、爪14は、前記窪み8に、爪15は孔10に入るものであつて、爪14は、その前後端面が図示のようにそれぞれ傾斜(γ)(δ)し、その先端面は上向きの円孤状となつている

D' 右回動枠12の自由端近くの上方に電磁石16を設け、回動枠12の自由端近くに可動鉄心17を、回動枠12に形成した長孔17aと可動鉄心17に固着したピン17bによつて結合し、電磁石16の円筒状鉄心16a内に前記可動鉄心17を上下動可能に挿入してあること

E' ウォーム歯車6の孔10と輪体の窪み8との関係位置を回動枠12の爪が15ウォーム歯車6の孔10に落ち込んだとき(第五図(A))、回動枠12の爪14が、先ず輪体の窪み8の手前の周面と接触し(第五図(B))、次いで輪体7が回転した後、窪み8の前端部に入り込むようになつている(第五図(C))、そして、この際、爪15は、はじめ爪14が輪体7の周面と接触するから孔10に浅く落ち込み、次に、爪14が窪み8に入り込むから爪15が孔10に深く落ち込むようになつていること

そこで、本件特許発明と被告製品甲とを対比する。

(一)  AとA'との対比

被告製品甲の回転軸3が高速軸、軸4が低速軸であることは明らかであり、右高速軸と低速軸は変速歯車であるウォーム5、ウォーム歯車6で結合されているから、被告製品甲のA'の構造は、本件特許発明のAの構成要件を充足する。被告本件特許発明では低速円盤8と変速歯車5、6とは別体であるのに対し、被告製品甲では低速円盤と変速歯車とがウォーム歯車6において同体となつている点において被告製品甲は本件特許発明と異なると主張するが、本件特許公報(成立に争いのない甲第一号証の二)の記載によつても、本件特許発明における低速円盤と変速歯車とが別体になつていることが本件特許発明の要件であることを認めることができない。右特許公報中の発明の詳細な説明の項の記載並びに図面は本件特許発明の実施例を示したものにすぎないとみるべきものである。被告は、被告製品甲がウォームとウォーム歯車を使用することによつて、製品そのものをコンパクトにすることができるという特徴がある点で本件特許発明と相違するというが、右主張は、ウォームとウォーム歯車が本件特許発明でいう変速歯車でないことを前提とするものであるから、理由がない。

(二)  BとB'との対比

被告製品甲においては、高速軸である回転軸3に、高速円盤である輪体7に窪み8を形成したものを固着し、低速軸である中空軸4aに低速円盤であるウォーム歯車6を固着し、右ウォーム歯車6の円盤部に孔10を形成してあるところ、前記輪体7の窪み8の後端面9は、窪み8の底面からみて突起に相当するものとみてよく、また孔10は凹みであるということができるから、被告製品甲の構造B'は本件特許発明の構成要件Bを充足する。なお、BとB'とはその作用効果の点でも一致する。すなわち、前掲甲第一号証の二(本件特許公報)によれば、本件特許発明では、磁性回動片15の爪13、14がそれぞれ高速円盤7の停止突起9及び低速円盤8の凹み部10に相対するようになり、掛止めされ、円盤2(鎖車状駆動輪)を停止し、球の流れを止めるものであること、すなわち鎖車状駆動論2と高速円盤7とは高速軸3に固着されているから、高速円盤7が停止すれば一体となつている鎖車状駆動輪が高速円盤と同時に停止し、球の流れを止めるものであることが認められる。他方、被告製品甲では、爪15が円盤状ウォームの円盤部に形成された孔10に落ち込み、この時爪14が輪体7の周面と接触し、輪体7が更に回転すると爪14と輪体7の周面とがスライドして窪み8に入り込みその後端面9が爪14に突当つて輪体7の回転を停止し、輪体と同軸に固着された回転車18を停止するものである(別紙第一目録の説明書の記載)。

なお、被告は、本件特許発明の高速円盤7はストッパー作用専用の円盤であるが、被告製品甲の輪体はストッパー作用のほか、逆転防止作用、計数作用、ブレーキ作用をも有するから、被告製品甲は本件発明の技術的範囲に属しない旨の主張をするが、右主張は本件特許発明の技術的範囲が本件特許公報の発明の詳細な説明の項及び図面に記載された実施例に限定されることを前提とするものであり、本件特許発明の技術的範囲が右実施例に限定されるものでないことは、前説明及び後出の説明のとおりであるから、被告の右主張は理由がない。

(三)  C、DとC'、D'との対比

本件特許発明の磁性回動片15に対応するものは、被告製品甲の回動枠12であるが、前掲甲第一号証の二(本件特許公報)によれば、本件特許発明では、槽内の球がなくなつたとき電磁石16を励磁させバネ17の張力に抗して磁性回動片15を回動させ爪13、14と高速円盤7の停止突起9及び低速円盤8の凹み部10との掛止めをはずすと、高、低速両回転軸3、4は自由になり球は再び流れ始めるものであることが認められ、この事実と本件特許発明の「磁性回動片」の用語とを結びつけて考えれば、磁性回動片とは、磁力の作用によつて回動できる部片をいうものと解するのが相当である。

これに対し、被告製品甲の回動枠12は、それ自体磁性によつて回動するものかどうかは必らずしも明らかではないが、被告の「被告製品甲の回動枠12は、電磁石16の可動鉄心17によつて引き上げられるものであるから磁性体である必要はなく合成樹脂で作りうる」との主張からすれば、回動枠自体が磁性体である場合をも意識しているものというべく、この回動枠12の自由端近くに可動鉄心17を結合し、回動枠12の自由端近くの上方に設けた電磁石16の円筒状鉄心16a内に前記可動鉄心17を上下動可能に挿入していることにより、パチンコ球の流れを停止後、再びパチンコ球を流す際、電磁石16を励磁すると、可動鉄心17は電磁石16に引き寄せられて上方に移動し、このとき可動鉄心17に結合した回動枠12がスプリング11に抗して回動し、窪み8の後端面9と爪14との係合及び孔10と爪15の遊嵌合が解かれるので、パチンコ球の重量で回転車18が回転し、パチンコ球が流れるものである。そうだとすると、被告製品甲における可動鉄心17を結合した回動枠12は、本件特許発明における磁性回動片であるということができ、右回動枠には高速円盤用爪(爪14)及び低速円盤用爪(爪15)が形成され、右回動枠は常時高速円盤に引きつけられており、また、右回動枠の回動範囲内に電磁石16が設けられているものであるから、被告製品甲の構造C'、D'は、本件特許発明の構成要件C、Dを充足する。

被告は、被告製品甲の回動枠12は、電磁石16の可動鉄心17によつて引き上げられるものであるから磁性体である必要がなく合成樹脂で作りうるから回動枠12を軽くすることができ、電磁石16による引き上げを円滑に行なうことができ、かつまた爪15のウォーム歯車6面上のスライドと爪14の輪体7面上のスライドが円滑に行なわれ騒音を発しないのに対し、本件特許発明の回動片15は磁性体であるから、被告製品甲のような作用効果を奏しない旨主張する。しかし、仮に回動枠を軽量化できるとしても、それだけでは被告製品甲が本件特許発明の技術思想とは異なる技術思想を有するとする特段の効果ということはできないし、また、仮に回動枠を被告主張のように構成したら、騒音を発しないということは、右騒音はパチンコ遊戯場における騒音に比してどれだけの意味を有するかは極めて疑問であるから、これも被告製品甲の特段の効果と目することはできない。

被告は、また、本件特許発明では、電磁石の設置位置に限度があるのに対し、被告製品甲では、電磁石の設置位置が回動枠の位置によつて制約されないし、電磁石の効率もよくすることができ、また、回動枠を軽く引き上げることができるなどの特段の作用効果を有する旨主張する。しかし、この主張も、本件特許発明の技術的範囲は、本件特許公報の発明の詳細な説明の項並びに図面に記載された実施例に限られるということを前提とするものであつて、その理由がないのみならず、被告製品甲でも、電磁石の設置位置は回動枠の上方に限られ、回動枠はその電磁石の磁性の及ぶ範囲内に設けられなければならないことは明らかで、結局電磁石と回動枠との関係は、本件特許発明における電磁石と磁性回動片との相関関係におけると変りがないものというべきであり、また、電磁石の効率の良否並びに電磁石が回動枠を軽く引き上げることができるかどうかということは、程度の問題にすぎないから、仮にそのような効果があつたとしても、それは被告製品甲の特段の作用効果ということはできない。

(四)  EとE'との対比

本件特許発明では低速円盤用爪14を低速円盤8の凹み部10に係合したとき、高速円盤用爪13を停止突起9の回動軌跡の手前に位置させたものであるところ、前掲甲第一号証の二(本件特許公報)によれば、右の係合とは、低速円盤用爪14が低速円盤8の凹み部10に入り込むことをいうものと認められる。ところで、被告製品甲では、回動枠12の爪15が、ウォーム歯車6の円盤部の孔10に浅く落ち込み、このとき回動枠12の爪14が輪体7の窪み8の手前の周面と接触して輪体が回転すると、爪14は窪み8の前端部に入り込むようになつており、この段階で窪み8に爪14が入り込むと同時に爪15が孔10に深く落ち込むようになつている。そうすると回動枠12の爪15に浅く落ち込んだときには、回動枠12の爪14はいまだ輪体7の窪み8に入り込んではいない。被告は、この状態をとらえて、爪15が孔10に浅く落ち込んだときが、本件特許発明にいう係合したときに相当するが、このときには、回動枠12の爪14が輪体7の窪み8の後端面9の回動軌跡の手前側にない旨主張する。ところで、前掲甲第一号証の二によれば、従来パチンコ球計数器として特公昭四〇―七五四五号にかかる特許発明があつたが、その計数器は、計数を停止するための掛止め作用において、別添本件特許公報の第六図に示すように、掛爪28、29が、それぞれ低桁用円盤の被掛部30及び高桁用円盤の被掛部31に同時に掛止めされ、被掛部31は、その機械上掛止めされるとき、一時的に、高速で回転している被掛部30と同速度で一桁の目盛分だけ回転するので、掛止めが不確実となり、パチンコ球を一定数計数したとき自動的に停止する機構が正確を欠く欠点があつたので、本件特許発明は、右欠点を解決するために、高速円盤7の停止突起9が掛止めされるのに先立ち、低速円盤8の凹み部10と低速円盤用爪14を係合させ、磁性回動片15がバネ17の張力で回転し、高速円盤用爪13を高速円盤7の停止突起9の回動軌跡内に進入させることによつて、爪13と停止突起9の掛止めを確実に行わせる構成を採用したものであると認められる。そうすると、回動軌跡の手前とは、爪13と停止突起9の掛止めを確実に行わせるに十分な突起9の、回動軌跡上の、突起9の手前の位置を意味するものというべきであるが、その位置は、変速歯車の数、高速円盤と低速円盤との速度比、高速円盤の一回転によつて流れるパチンコ球の個数、機械製作上の精度などによつて左右されるものであるから、突起9と円盤7の中心点とを結ぶ直線から角度で何度の位置というように厳密には定めえない。前認定の事実及び本件特許発明の構成要件とに基づいて考究すれば、本件特許発明という回動軌跡の手前に位置せしめるとは、高速円盤用爪13を、停止突起9の位置からみて、同突起9との掛止めを確実に行わせるに十分な余裕をみた距離の個所に位置せしめることを意味する程のものと解するのが相当である。

ところで、被告製品甲では、爪15が孔10に浅く落ち込んだとき、つまり係合したときには、爪14は、窪み8に入り込んではいないが、窪み8の後端面9の回動軌跡上の、別紙第一目録第五図(B)に示す位置に位置せしめられているのであるから、前説明の本件特許発明にいう回動軌跡の手前に位置せしめられていることになることは明らかであるというべきである。

そうすると、結局、被告製品甲の構造は、本件特許発明のEの構成要件を充足することになる。

被告は、本件発明では、回動片の一回的動作で球の流れを止めるものであるから急激な回動が行なわれ、正確な位置決めができないのに対し、被告製品甲では回動枠の二段動作で球の流れを止めるものであるから急激な回動が行なわれず、これによつて爪が躍動することもないから正確な位置決めができる旨主張する。しかし、本件特許発明は、前記のとおり従来同時掛止めによる欠点を前記構成にすることによつて解決し、確実に掛止めすることを可能にしたものであつて、被告のいう正確な位置決めは、本件特許発明においても、変速歯車の回転比を精密に行なうことによつて、これをすることができるものと認められるから、被告の主張は理由がない。

被告は、また、被告製品甲では、回動枠の二段動作によつて正確な位置決めが行なわれるため、長期使用によるウォーム5とウォーム歯車6の摩耗、バックラッシユの増加による計数誤差がなく、回動枠12の爪15とウォーム歯車6の孔10とが遊嵌合であるから、電磁石16の吸引力を半減できるだけでなく回動枠に対する過負荷を防止できる特段の効果を有する旨主張するが、本件特許発明では計数誤差を生ずることの証拠はないし、電磁石16の吸引力を半減できるとの点は、これによつて被告製品甲が本件特許発明の技術的範囲に属しないとするほどの特段の作用効果とはいうことができないから、この主張も採用できない。

更に、被告は、爪14によつて輪体7に対するブレーキ作用があり、従つて、輪体7は徐々に減速されて窪み8と爪14との係合を確実に行なわせることができ、輪体7を回動調節して予め止めビス7bで仮締し、その後クロスピン7aで固定することができるので、加工誤差による位置決め調整をもすることができる特段の作用効果を有する旨主張する。しかし、この主張もまた、本件特許発明の技術的範囲は本件特許公報の詳細な説明の項並びに図面に記載された一実施例に限られることを前提とするものであつて、その採りえないものであることは明らかである。

(五)  なお、被告は、本件特許発明の構成要件は、被告の主張二(一)の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各技術思想から成るものであり、これらの各技術思想は、いずれも本件特許発明の出願前公知であつたか公知の技術から容易に考えられるものであるから、本件特許発明の技術的範囲は、本件特許公報の発明の詳細な説明の項及び図面に記載された実施例に限られるべきものである旨を主張して、その(二)の技術思想が本件特許出願前公知であつたとの証拠として乙第三号証(特許出願公告昭三六―一一五四〇号特許公報)を提出する。しかしながら、右公報記載のものは二腕が別々に作動し、一体となつていないものであるのに対し、本件特許発明においては、低速円盤用爪14と高速円盤用爪13とが同時に作動する構成であり、ひいて両者はそれぞれ別異の作用効果を奏するものであるから、両者の発明思想は異なるといえるものであるのみならず、仮に被告が分説する本件特許発明の技術的思想(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が本件特許出願前公知であつたとしても、本件特許発明は、前記のとおりA、B、C、D、Eの各構成要件の結合から成るものであつて、そこに特許が与えられたものとみることができるから、被告の右分説した各技術思想が本件特許出願前公知であつたか、公知の技術から容易に考えられるものであつたことを理由として、本件特許発明の技術的範囲が実施例に限られるとする主張は理由がない。

(六)  以上説明のとおり、被告製品甲は、本件特許発明の構成要件をことごとく充足するからその技術的範囲に属するものといわなければならない。

三次に被告製品甲、乙が、本件実用新案の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。

先ず、被告製品甲、乙が、いずれも本件考案の「複数個の歯1を形成せる回転車2の一部分をパチンコ球流通樋3の中にのぞませた」構造を具備することは、当事者間に争いがなく、被告製品甲、乙がともに「パチンコ球流通樋(甲は20、乙は23)の内側断面を角形にした」ことは被告の自認するところであるから、本件考案の構成要件をすべて具備するものといわなければならない。

被告は、本件考案のパチンコ球流通樋は、内側面の断面は角形で、外側面の断面は円形のものと解さなければならない旨主張する。しかし、成立に争いのない甲第二号証の二(本件実用新案公報)中の実用新案登録請求の範囲の項の記載によれば、本件考案のパチンコ球通樋は内側断面が角形であれば足りるのであつて、外側断面の形状いかんは問わないものであることが明白である。本件実用新案公報の図面に従来品として内外側面円形のものが示してあるかどうかということは右のこととは全く関係のないことである。被告の主張は理由がない。

従つて、被告製品甲、乙は、いずれも本件考案の技術的範囲に属する。

被告は、本件考案の内容全部は、本件考案の実用新案登録出願前公知であつたから、この考案に含まれる技術は万人共有の財産であつたものであり、その故に原告は実用新案権の名のもとに他人に対してその考案の実施を差止めることはできないと主張する。しかしながら、仮に本件考案の内容全部が被告主張のように本件考案の実用新案登録出願前公知であつたとしても、これを理由に実用新案登録を無効にする旨の確定審決がないかぎり、権利として存在している実用新案権を全くの無内容のものとしてしまうこと、従つてその実用新案権には差止請求権もないものとしてしまうことはできないものといわなければならない。被告の主張は理由がない。

四よつて、被告の別紙第一目録記載のパチンコ球計数器の製造、販売行為は、本件特許権と実用新案権を各侵害するものであり、被告の別紙第二目録記載のパチンコ球用計数器の製造、販売行為は、本件実用新案権を侵害するものであるから、右各行為の差止を求める原告の本訴各請求は、いずれも理由があり正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(高林克巳 野澤明 清永利亮)

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